「私、大きくなったらブローノのお嫁さんになる」 そう幼馴染に言ったのはいつだったか。 私は今日、結婚する。 確かに恋だった 残念ながら、相手は幼馴染ではない。 幼馴染の彼は私の家の隣に住んでいた。 私の方が2つほど年下だったので、子供の頃は兄妹のように過ごしていた。 あの頃は何をするにでも私は彼の後をついていった。 いつも彼は私の手を引いてくれた。 懐かしい思い出に心を馳せていると、後ろから呼ぶ声が聞こえてきた。 「、久しぶりだな」 幼馴染のブローノ・ブチャラティだ。 「オレが来ていいか迷ったんだが・・・隅にいるから許してほしい」 「何言ってるの。 皆ブチャラティが来るのを楽しみにしてるのに」 彼が困ったような顔をする。 ブチャラティはギャングだ。 多分その自分が列席してもいいか迷ったんだろう。 でも来てくれた。 それだけで私は嬉しかった。 「、幸せか?」 「・・・あのね、ブチャラティ。 実は私・・・」 「!!」 その時両親が現れた。 「ブローノじゃないか。 懐かしいな、どうだ?最近は」 「あなたったら、大分酔っているのね。 ごめんなさいね、ブローノ。 でもあなたの顔が見れて、私も嬉しいわ」 両親に歓迎され、ブチャラティも笑顔を見せている。 「が幸せで、ご両親も安心でしょう」 「ええ、そうね。 こんな日がくるなんて・・・」 母の目にうっすらと涙が浮かんでいる。 「お母さん、何か用があってきたんじゃないの?」 私は母親にハンカチを渡した。 「あ、そうだ。 あなた新郎を置き去りにしてあちこち歩き回ってるから」 「置き去りにしてるわけじゃないわ。 でも式までまだ時間があるでしょ?」 「そうだけど・・・」 「まだブローノに話があるから」 そう言って私はブチャラティの手を取って、会場の外れの方に引っ張って行った。 「それにしても久しぶりだな」 「ええ、そうね。 あなたはあまり帰って来ないから」 「そうじゃなく、さっき『ブローノ』と呼んだろ? がそう呼んだのが久しぶりだと思ったんだ」 「あ、それは・・・」 そこで私は彼の手を掴んでいたことに気づき、急いで離した。 「いつも『ブチャラティ』と呼んでいただろ?」 確かに私は小さい頃は『ブローノ』と呼んでいた。 だけど、いつまでもそうは呼べなくなってしまった。 「それは大人になったから。 いつまでも『ブローノ』って呼ぶのは何だか子供っぽいと思ったのよ」 「そういう理由だったのか?」 「だって、ブローノってばいつの間にか大人みたいな顔していたから。 『ブローノ』って呼びにくくなったの。 ブローノはギャングだけど、私の幼馴染のはずなのになんとなく遠く感じて。 それで『ブチャラティ』って呼ぶことにしたの」 「そうだったのか。 それは悪かったな」 彼は私の髪を撫でた。 まるで小さな子をあやす様に。 「ね、ブローノ。 あの・・・」 「なんだ?」 「・・・ううん、やっぱりいい。 なんでもない」 「そんなことはないだろう? まだ時間はある」 「そうだけど」 「結婚を迷ってるのか?」 核心を付かれ、思わず彼を見た。 「当たったようだな」 「どうしてわかったの?」 「わかるさ。 相手は町の名士の息子。 突然決まった結婚に、何かあるかと思えばお前の両親は相手に多額の借金がある。 今どき借金の片に結婚なんてことがあるとはな」 私は口を金魚のようにぱくぱくさせるしかなかった。 どうしてそこまで知っているのか。 「どうしてわかったのかって顔してるな。 そりゃ、調べたからだ。 勘だが何かあると思ったからな」 彼はそう言って私の手に、自分の手を重ねた。 「お前のことだ、無理をしてるんじゃないかと思ってオレは来たんだ」 ああ、彼は変わっていない。 ギャングになっても変わっていない。 優しいブローノ。 私の、好きな人。 「どうする? このまま逃げるか? ちゃんと手はずは整えてある。 後のことも任せてくれていい」 そう言って微笑する彼を見ていると頷きたくなる。 助けてほしいと縋りたくなる。 でも。 「ありがとう、ブローノ。 でも大丈夫」 私は彼の手を離した。 もう小さな子ではない。 彼に手を繋いでもらわなくても歩いていかなければいけない。 「あの人、良い人なの。 すごく良い人なの。 断ってもいいって言ってくれた。 でも私は断らなかった。 だから大丈夫」 精一杯の笑顔を作った。 彼はそんな私を少しの間見つめ、そして息を吐いた。 「そうか。 オレの取り越し苦労だったらしい」 「ううん、ありがとう」 私たちはしばらくそうしてお互いを見つめた。 私は嘘を隠しながら。 彼はきっと私の本心を探りながら。 |
完了:2014/8/30 |