※ジョルノ17歳の設定です。 (原作から2年後) |
「新しい音楽の先生、見たか?」 誰かが話しているのを聞いた。 「見た、若い先生だろ?美人の」 「そうそう」 僕はそれまでその先生を見たことがなかったし、これからも見ることはないと思っていた。 しかし、この彼女との出会いで僕は静かに、でも確実に何かが変わり始めた。 確かに恋だった 僕が所属するネアポリス高等学校。 表向きまだ籍を残しているが、授業には殆ど出ていない。 だからと言って誰かに咎められることももうない。 それでも時々学校の図書館には足を運ぶ。 一人で考えたいことがある時などにはちょうどいい場所だ。 特に僕が行く時間は朝早くか夜遅く。 誰もいない時を見計らって。 その日もそうだった。 夜遅く図書室の戸を開けた。 誰もいないことはわかっている。 さらに奥の誰も近寄らないようなコーナーへ足を運ぶ。 今日は何の本を読もうか。 最近酷く疲れている。 本当なら図書館などに来ず、体を休めればいいのだろうが頭が冴えて眠ることも出来ない。 僕は適当な本を取る。 集中せずに頭の中を沈めることができるような本。 分厚いその本は借り手が殆どいないらしく、古い割には状態は綺麗だ。 席に着き、本の表紙を捲ろうとした時かすかに音が聞こえた。 こんな時間に生徒がやってくる訳がない。 そもそも誰もやって来れるはずがない。 ここの司書は組織の手の者だからだ。 では何故。 耳をそばだてる。 だが相手は僕がいることに気づいてはいないらしく、特に警戒した様子も見せず向かってくる。 こちらに来るだろうかと思ったところで、別な方向へと曲がったようだ。 静かに音を立てずに相手の様子を伺う。 そこで歌が聞こえてきた。 どうやら入ってきた女性が歌っているらしい。 そのメロディに僕は反応する。 昔、小さい頃母親が気まぐれに歌っていた子守歌だ。 それを聴いた日はぐっすりと眠れた気がする。 懐かしさに思わず、気配を殺すのを忘れて聴き入ってしまった。 カタリ。 しまったと思った時はもう遅い。 「・・・誰かいるの?」 女性が声を上げる。 隠れているのは得策ではないと、僕は女性の前に出た。 それに興味もあった。 こんな時間に図書館にやってくる女性。 懐かしい歌を口ずさむ人。 「あなたは・・・」 見たことがない。 若い女性だが格好を見れば生徒ではないことがわかる。 「先生、ですか?」 「そういう君は、ジョルノ・ジョバァーナくんかしら?」 「そうです。 貴女は?」 「私は。 担当は音楽よ。 もっとも君を授業で見かけたことはないけれど」 音楽の授業など出たことがない。 「こんな時間にどうしたんですか?」 「それは先生の言葉よ。 何をしているの?こんな時間に」 「眠れないので本を読みに来たんです」 間違ってはいない。 気分を落ち着かせる為に来たのだから。 「先生は何故?」 「私も同じようなものよ。 でももうお互い寝る時間ね」 確かに最早深夜。 もう少しいたかったがしょうがない。 「わかりました、戻ります」 「ええ、そうしてちょうだい。 たまには私の授業にも顔を出してくれると嬉しいんだけど」 僕に面と向かってこう言ってきた教師は初めてだ。 彼女の目を見る。 そこに見えるのは優しそうな眼差し。 「考えておきます」 「おやすみなさい」 本を戻し、図書館を出て行こうとした。 だがそこで思い出して戻る。 「どうしたの?」 「先ほど歌っていた歌は?」 「ああ、子守歌ね。 弟が小さい頃歌ってあげてたの。 よく眠れるようにね」 思い出したのか、ふふふと笑う。 「あなたにも歌ってあげましょうか?」 「僕は子守歌を歌ってもらわなきゃならないほど、子どもじゃあないですよ」 「そうかしら?」 からかわれているのがわかって、早々に部屋を出た。 子ども扱いされたが、不思議と嫌な感じはしなかった。 他の大人や教師は僕の立場について話がついているのだろう、何も言ってこない。 僕が授業に出なくても、何もしなくても一様に静かだ。 むしろ来られると困るくらいの気持ちがあるだろう。 それを考えると先生の反応は珍しい。 音楽の授業に出るつもりはないが、あの子守歌は聴いてみたい。 そう言ったらまた子供扱いされるだろうから、口が裂けても言えないな。 |
完了:2014/9/17 |