あれからさらに数日。 オレは毎日のように花屋に行った。 アイツに会うために。 確かに恋だった 「今日はいるんだな」 そう言うと、は眉をあげた。 「手伝いですから毎日はいません」 だから昨日はいなかったのか。 「次はいついるんだ?」 「明日はいますけど、でも別に私じゃなくても花束は作れますよ」 と言いながらいつもの花を集め、移動する。 オレはその後を追った。 「説明するのが面倒くせぇし」 「私が伝えておきますから」 「いいんだよ、別に」 じゃないと意味がない。 「そちらはよくても私は困ります」 彼女がオレを見る。 オレは何か困らせることをしただろうか。 首を捻る。 「一体どこに毎日花を贈ってるんですか?」 「そ、それはプライベートなことには答えられねぇ」 思わずどきりとする。 それを聞かれるのは痛い。 「はい、こちらです」 オレはそれを受け取り金を払った。 かすかに手が触れる。 それだけで全身に熱が走る。 「じゃあ、明日来るからな」 「わかりました」 彼女の溜息は聞かなかったことにした。 「で、どこまでいったんだよ、その女と」 ネアポリスの中央にあるブチャラティのマンションに行くとミスタがいた。 「毎日会いに行ってる」 「じゃなくて、キスをしたとかあるだろうが」 「名前と歳しか知らねぇんだよ」 「お前、毎日通っててまだそれかよっ。 意外と億手なんだなぁ、ナランチャ」 「いいだろっ、別に」 オレとミスタが言いあってるのを見てブチャラティが笑う。 「しかし、良いものだな」 「何が?」 言っている意味がわからず聞き返す。 「恋をするってのは素晴らしいことだ、ナランチャ」 ブチャラティは持っていたカップに口をつけた。 「で、でもさぁ、オレ、ギャングだし」 ギャングであることに後ろめたいと思ったことはない。 むしろ誇りだと思っている。 だけど、は違うかもしれない。 「いいじゃねぇか、そんなことは」 「どう思う?ブチャラティ」 オレはミスタを無視してブチャラティに向き合う。 「そうだな」 何かを考えているらしい。 やっぱり難しいことなんだろうか。 「イタリアは恋の国だ。 この国は花屋だろうがギャングだろうが、同じように恋をする」 「そうそう、難しく考えんなよ」 ミスタはともかくブチャラティがそんなことを言うなんて。 「ブチャラティも恋したことあるのか?」 思わず口から出てしまった。 「オレもそれ聞きたい」 ミスタも身を乗り出す。 「さぁ、どうかな。 それよりナランチャ、ウチまで花屋にするつもりか?」 この部屋だけでなく、ブチャラティの家のあちこちに花が飾ってある。 全部オレがから買ってきたものだ。 元々は殺風景だとフーゴがあの店から花を買ったのが始まりだった。 オレはそこでに会った。 一目惚れってやつだ。 実際可愛い顔をしてると思う。 ブチャラティが何かを取り出す。 「遊園地のチケットだ。 誘って来い」 その2枚のチケットをオレは受け取った。 「いいじゃねーか、行ってこい」 ミスタにも肩を叩かれる。 「でもさぁ、突然過ぎねぇ?」 そのチケットを手に二人を見る。 オレはまだに何も言ってないんだし。 「そんなこたぁ、ねぇだろ。 毎日通ってんだし、お前が気があるってくらい向こうだって気づいてるって」 「可能性はあるな」 ミスタの意見にブチャラティが同意する。 そうだろうか。 彼女は気づいてるだろうか。 だから困っているんだろうか。 オレの気持ちを知って、迷惑なんだろうか。 「うじうじ悩んでても仕方ねぇ! ありがとう、ブチャラティ! 早速行ってくるぜ」 オレは急いでドアへと向かった。 「お前、今から行くのかよ」 背中からミスタの声が聞こえてくる。 オレは振り向いて言った。 「こういうのは早い方がいいんだよっ。 まだ店開いてるはずだからな」 あれこれ考えるのは苦手だし、早くに会いたかった。 どんな結果になろうとも。 「今日は2回目ですね」 店の片付けの最中だったらしい。 が店の前に出ていた花を店内に戻そうとしている。 この店は駅前だからか20時まで開いている。 「いや、花を買いにきたんじゃねぇ」 「じゃあ、何しに?」 彼女が少し首を傾げた。 その様子が可愛いと思った。 「これ」 に1枚チケットを渡す。 「アンタと行きたい」 回りくどく誘うのは性に合わねぇ。 「あの」 戸惑った表情を見せるに畳み掛けるように話を続ける。 「アンタの次の休みは?」 「え、ええと今度の日曜日なら・・・」 「じゃあ、日曜日!」 「え、でも」 「もう決めた。 アンタもいいな」 有無を言わさずにオレは決めた。 「店に迎えに来るから。 待ってろよ」 少し間が空いた。 さすがに強引過ぎたかとドキドキする。 頷いてくれ。 オレは心の中で強く願った。 「わかりました」 そう言うは笑顔だった。 それがまたすごく可愛くて。 いやきっと彼女は何をしても可愛いんだとオレは思う。 「待ってます」 この言葉にオレも笑顔になった。 |
完了:2014/7/31 |