今日からジャージ着用。 皆とロッカーは同じ部屋だけど、着替える時だけ女子バスケ部の部室を拝借している。 先生が気を使ってくれたらしい。 catch & release 2日目。 「ちわーっす」 彦一君たち1年生が元気に挨拶してくれる。 「早いねぇ」 モップをかけていた彦一君に声をかけた。 「そうです、はよモップがけせんと先輩達が来てしまうさかい」 「皆早いもんね」 私もボールを磨いている。 モップがけとボール磨きは1年生の役割の一つらしいけど、私もやる事がまだわからないし、コミュニケーションをとるチャンスだと思って、手伝わせてもらっている。 そうすると2年生もやってきた。 部活が始まる。 「そう言えば、今日もまだ来てないね。キャプテン」 「仙道さんは大体遅れてくるんです。 おおらかな人やから」 うーん、あの田岡先生にそんなことが出来るなんて、さすがキャプテン。 変なところだけどある意味感心してしまう。 「でも、越野さんや植草さんたちがおりますから、大丈夫ですよ」 彦一君の言葉に、近くの1年生も頷く。 まだよくわからないけどキャプテンが遅刻しても部活は大丈夫だということらしい。 私は部活開始から30分経ったのを確認し、体育館を出た。 今日も天気がいい。 私は自転車を漕いで海を目指す。 今日もキャプテンは海に向かっていた。 そして私を見つけると笑顔で声をかけてきた。 「どう、もう慣れた?」 いやまさか。昨日入ったばかりですが。 「お陰さまで、実質今日がマネージャー業1日目です」 「あははは、でも何だか前からいたみたいに違和感ないよ」 どういうことだろうか。馴染んでるって事? 「ほらほら、早く戻って部活しないとまた怒られるよ?」 もう今の時点で遅刻してるんだし。 「しっかりしてるね、マネージャー」 「そりゃマネージャーだからね」 私のこの言葉にまたも笑うキャプテンを、「置いてくよ」と言って急かした。 この人、本当にキャプテンなんだろうか。 部活やる気あるのかな。 昨日と同じように遅れて部活に参加した仙道君は相変わらず笑顔で謝って、先生も「コラ、仙道!」と言いつつもそれ以上は言わない。 多分いつものことなのだろう。 キャプテンがいつも遅れてくるのは問題な気もするけど(しかも県ベスト4のチームが)、部員も先生もあまり多くは言わない。 不思議な部活だなぁ。 でもさすがに練習を始めると少し顔つきが変わった。 別に険しい顔になったり怒鳴ったりはしない。 先ほどと同じく笑顔ではあるものの、何だろう、何かが違う。 他の部員も仙道君が入ったら雰囲気が変わった。 さっきだってピリっとしてたけど、さらに集中している感じだ。 キャプテンが入るとこうも変わるのだろうか。 今まで運動部に入ったことがない私にはわからない。 「どうだ?うちのバスケ部は 練習後に田岡先生に声をかけられた。 「はい、何だかよくわからないけどすごいですね」 これが私の素直な感想だ。 バスケ自体よくわからないけど、何かがすごい。 何がすごいのかを言い表せない自分が悲しいけどとにかくすごかった。 えーっと例を挙げれば、そうだ、生まれて初めて生でダンクというものを見たんだ。 確かあれば福田君だ。あんなに飛べるなんてすごい。 それから、越野君と植草君のコンビが1年生達を軽くあしらってたり。 それでそれで皆の練習量が半端ない感じで、こんなにやるのかと驚いたんだ。 まぁ、そんな気持ちを一言に詰め込んだことが先生には伝わったらしい。 笑顔で頷いた。 「そうだろう。 冬の選抜こそ、全国に行くぞ」 全国・・・そうか、県のベスト4なら次の目標は全国大会出場だよね。 皆目標があるからあんなに頑張ってるんだ。 先生も目を輝かせてる。 皆と同じくらい楽しそうだ。 「『皆の練習量は半端じゃない』・・・じゃなく『かなりなものです』かな」 私は部室でマネージャーノート(1日の練習の内容や部員の記録をまとめたもの)の他に気がついたことをメモしている自分専用の個人ノートに勝手な感想を書いていた。 記録だけでなく、記憶もあった方がいいだろうと思って書いてる。 何かの役に立つかどうかは置いといて、自分の日記のようなものだ。 記憶を辿って書くわけだからかなり集中してたと思う。 だから気づかなかった。 上から覗き込んでいた人がいることに。 「俺のことが書いてないなぁ」 「うわっ!?」 後ろを向くと仙道君が立っていた。 「福田のダンクと、越野と植草のことはいいとして。 1年生のことまで細かく書いてあるのに。 しかも監督のことまで書いてあるのに」 確かに書いた。 出来る限り部員のことは全員一言でいいから書こうかと思って頑張った。 そもそも同じ2年生でも誰一人同じクラスの人はないないし。 そうやって名前を覚えたり、その人の得意とすることがわかればいいと思ったんだけど。 「いえ、やっぱりキャプテンのことは最後に書こうかな〜、なんて」 「そうなんだ、でも『明日も頑張りたいと思います。』ってここでまとめちゃってるよね? 終わりじゃないの?」 笑顔で痛いところをつかれました。 「俺、今日いいところなかったかなぁ」 「いえ、そんなことは」 別に書くところがない訳じゃない。 ないんだけど、書くとすればどこを書けばいいのかわからなくて。 先に他の人を書いていたらそのまま、まとまって終わってしまったのだ。 さすがにキャプテンなだけあって、というかやっぱりよくわからないけどすごい。 何だか彼は目が惹きつけられる。 頑張って他の部員を見ようと思わないと、自然と目が追ってしまう。 それはやっぱりカッコいいからなのだろうか。 自分のミーハー加減にがっかりしていると横から誰かに言われた。 「仙道さんを見てんですか?」 どきっとした。 私そんなに見てた!? だけどそこに彦一君が、 「仙道さんは華がありますからね。意識せずとも見てしまいますやろ」 と言ってくれたから私も頷いた。 そんな訳でかなり彼を見てはいたんだけど。 一言で書くのはかなり厳しい。 「彦一が、さんが見てたって言うからはりきってみたんだけど」 彦一君、一体何を言ってくれたんだ。 「いえ、見てましたよ。本当に」 「楽しみだな、なんて書いてくれるか」 そんなさわやかな笑顔で見られると、書かない訳にはいかなくなる。 本人の前で何を書けばいいのだろう。 カッコよかったとか?それはちょっと。 目が追ってしまいます?それもどうかと。 私がうんうんと唸っていると、当のキャプテンが少し困ったように眉を下げた。 「ゴメン、困らせちゃったな」 そう言っていつものように笑顔を見せて、部室から出て行った。 私はと言えば、自分の頭の悪さに腹が立ち、自分で頭を叩いた。 自分で叩いたけれども結構痛い。 こんな私の書くものを彼が気にするとは思えないけど、それでも何か書けば良かったと心から後悔した。 |
完了:2014/7/10 |