今日は朝から雨が降っていた。 そしてそれは部活が始まる時間になってもまだやまない。 catch & release 10日目。 私は他の生徒達が傘をさして帰るのを校舎の中から見ながら、図書室を目指した。 雨の日は校内にいてサボるらしいキャプテンを探しているのだ。 それにしても毎日毎日部活に遅刻するというのはどういう訳なのだろう。 図書室のドアを開け、中に入る。 雨だからだろうか、少しかび臭い。 私は広い図書館の中で、田岡先生に言われたところを目指した。 左奥の机。 ほとんど生徒が寄り付かない専門書などが置いてあるコーナーだ。 高い棚と棚の間から仙道君が見えた。 彼は席に座っているものの、本も持たずただぼんやりと窓の外を見ていた。 「何が見えるの?」 サボっていることよりも彼が何をしているのかが気になった。 「雨が降ってるのを見てる」 彼は視線はそのまま外に向けたまま応えた。 まだ私がバスケ部に入って今日で10日目。 だが彦一君や越野君たちから色々と毎日教わっている。 マネージャーについて、バスケについて、先生について、仙道君について。 この仙道君がいたから去年も今年もベスト4だった事。 彼は東京からスカウトされて来たと。 そして天才だと言われているという。 そんな実力者がどうして部活をサボるのか、私には全然理解できなかった。 田岡先生も頭を抱えていた。 先生はバスケの実力は一流で、試合に出れば心身ともに皆の支えになる彼がキャプテンに相応しいと言っていた。 だがこれでは他の部員にも影響が出てくる。 見かねて前キャプテンの魚住さんが渇を入れたことがあったらしいけど、結局効果はなかったそうだ。 副キャプテンがよくやってくれているが、キャプテンを変えるべきかどうか悩んでいる。 先日先生はそんなことを言っていた。 そしてだから私を入れてみたのだろう。 キャプテンを探す時間を他の部員が取られない様に。 でも、もしこのままなら、本気で先生はキャプテンを変えることを考えるかもしれない。 私はまだまだ新人で、皆のこともわかっていない事の方が多いけどわかることがある。 それは皆は仙道君にキャプテンでいてほしいと思っているということだ。 チームを引っ張っていってほしいと願っている。 そしてそれは田岡先生の希望でもあることもわかる。 皆が望むことが出来る人なのに、どうしてなのだろう。 私は、私も彼にキャプテンでいてもらいたいと思っている。 もしキャプテンが変われば、私は彼を探さなくてもいいかもしれない。 今でも彼に近づくのを躊躇っているのだからその方がいいのだけど。 でも、やっぱりキャプテンは彼しかいない。 私は先日、仙道君から『俺の事苦手?』と聞かれた。 それに対し私は嘘を吐いてしまったのだけど、彼はそれを信じた。 信じたかどうかわからないけれど、私を追い詰めるような事はしなかった。 そんな彼だから、キャプテンでいてほしい。 私は彼の隣に座った。 「仙道君、聞いてもいい?」 「いいよ、何?」 「どうして部活、サボるの?」 いきなり過ぎるかもしれないけど、聞かないわけにはいかない。 彼はびっくりした顔をしてまた笑った。 「何でだろう」 「バスケ、好きだよね」 「うん、好きだよ」 だったら何故。 「キャプテンだってことが重荷?」 「そんなことないよ」 確かにそんな風には見えない。 サボることを除けば、練習中の彼の態度はキャプテンに相応しい。 他にサボる理由があるだろうか。 田岡先生が苦手だとか。でもそうは見えない。 「何でサボるんだろう」 あれこれ考えていると彼がやっぱり窓の外を見ながら呟いた。 「俺もわかんない」 そう呟く彼の横顔は、私にはいつも通りに見える。 だから彼が何を考えているのかわからない。 少しの間そうしていたけど、彼はにっこり笑って立ち上がった。 「さ、行こうか。 キャプテンとマネージャーがいないんじゃ、さすがにまずい」 私は何も言えずただ彼の大きな背中を追った。 今日も厳しい練習が終わった。 私は日課である個人用ノートに書き込む為、部室で一人今日の練習を思い出していた。 越野君は一生懸命スリーポイントというシュートを練習していた。 「うちの弱点だからな」 外がない、そう思われてんだと彼は言っていた。 福田君も、彼はミドルシュートを練習していた。 「冬の選抜は魚住さんたちがいないからかなり厳しい」 そう植草君も言っていた。 「仙道に頼ってばかりじゃ駄目なんだ」 皆一生懸命に頑張っている。 天才だというキャプテンに追いつこうと、彼の足を引っ張らないようにと努力している。 「皆それぞれに課題を見つけ、一人ひとりが明確な目標を持ってやっています、と」 そうして書いてから私は溜息を吐いた。 バスケ部に入部してからちょうど10日。 毎日ノートを書いているが、未だに仙道君のことが書けていない。 書けない理由は私の問題だと思っていたのだけど、何となくそうでもない感じがする。 彼に『完璧すぎて苦手』だと嘘を吐いてから、少し楽になった。 だから今なら何か書けそうな気がしたのに、結局書けないままでいる。 きちんと自分の気持ちと向き合っていないからだろうか。 自分の気持ちと向き合えば、少しは彼のこともわかるのだろうか。 |
完了:2014/7/18 |