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昨日とはうって変わって晴天だ。
私は体育館に顔を出し、そしてその後またいつものように自転車に跨る。
キャプテンは今日はどこにいるのだろう。





catch & release
11日目と12日目。








昨日の雨のせいで海で釣りは出来ないと思って最初学校の近くを探した。
公園やコンビニ、駅前など。
だけどどこにもいなかった。
そして最後にいないだろうと思っていった海に彼はいた。
さすがに釣りはしていない。
ただ海をぼんやりと見ていた。
さん、今日は遅かったね」
彼は私を見るなりそう言った。
別に私と彼は待ち合わせをしている訳ではない。
彼がまっすぐに部活に行かずに、日々遅刻したりサボったりするから探していただけ。
だから遅いとか早いとか彼に言われたくはない。
私はどうして彼がサボるのかをずっと考えていた。
だけどやっぱりわからない。
昨日本人に聞いてみたけど、本人もわからないと言っていた。
天才と言われる彼は人とは違うのだ。
器が大きく、だから些細な事は気にしない。
きっと彼の為に私や先生や他の部員が悩んでいても、それも些細な事なのだろう。
実際、彼は人の嘘も問い詰めないし、人を追い詰めたりしない。
だけど私はそうじゃない。
私は出来た人間じゃない。
今までは彼に近づくのが怖くて何も言えずにいたけれど。
それは今でも変わりはないが、でもこの時はちょっと違っていた。
皆がこんなに心配しているのに、あくまでのんびりしている彼に多少怒りを感じていた。
「仙道君、バスケ辞めたら?」
「・・・え?」
彼はゆっくりと振り返り、私を見る。
「もう2年連続でベスト4入りしたし、十分学校にも先生にも貢献したと思うよ。
 だからもう義理立てしないで辞めちゃったら?」
言っている私でさえとんでもない事を口にしていると思っていた。
だけどもうどうにでもなれという気もしていた。
「仙道君がいなくても皆やれると思うよ。
 まぁ、全国に行くのはもしかしたら厳しいかもしれないけど。
 でも皆頑張ってるから大丈夫だよ。
 キャプテンもきっと越野君がしっかりとやってくれると思うし」
私はしゃべっている間も、自分のことで精一杯で彼がどんな表情をしていたのか。
顔を見ていたのに思い出せない。
だけど、声は覚えている。
「そうだな、さんの言うとおりだ」
いつものように優しい、だけどどこか寂しげに聞こえたのは多分気のせいじゃない。


その後いつも通り体育館に戻って、いつも通り部活をした。
私は彼がバスケをしている姿をして、どんどんと後悔が膨らんでいった。
何であんなこと言ったんだろう。
田岡先生や副キャプテンの越野君や前キャプテンの魚住さんがあんまり悩んでいて。
そしておまけに私まで一緒に悩んでしまって。
皆が仙道君に振り回されていると思って、つい言ってしまったのだ。
彼は全く気にしていないというように、いつもと変わりなく笑っていたし、怒られてもいたけど。
でも私はそんな彼の姿を見る度に、逆にどんどん沈んでいった。


次の日。
昨日に引き続き晴天だったので、仙道君は釣りに行ったかなと思いつついつも通り先に体育館に顔を出した。
すると、もう既に仙道君がそこにいた。
「おお、仙道!
 今日は真面目に来たのか!」
先生の嬉しそうな声。
「珍しいな」
「何があった」
「明日は雨かもな。せっかく晴れたのに」
皆が彼の周りに集まる。
私はその輪に加われず、皆を見ていた。

もしかしたら私が昨日言ったことが効いているのかもしれない。
これで良かったのだ。
こうして彼が真面目に部活に来て、皆が喜んでいる。
良かった、厳しい事を言った甲斐があったというものだ。
そう思うのに何故か私の心は晴れない。
皆の輪の中心にいる仙道君はいつも通り笑顔だというのに。

「しかし何があったんだろうな、仙道に」
部活が終わり、越野君が植草君に話しかけている。
「少しは真面目にやろうと思ったんじゃないのか?」
「仙道が?」
「お前、仙道を何だと思ってるんだ」
そう植草君が言って、二人で笑っていた。
私はいつもの個人ノートに皆の事を書こうと部室に向かった。
今日は、今日こそは仙道君のことを書こう。
真面目に参加した初日だ。
これが続くように。
そう思ってノートを開くのだけど、やっぱり書けない。
どうして書けないのだろう。
皆が着替えに部室に戻ってきたので、私はマネージャーノートを先に先生に出してしまおうと席を立った。

「仙道がようやく目を覚ましたか」
本当に先生は嬉しそうだ。
確かに今日の仙道君はいつもと違っていた。
遅刻しなかっただけでなく、いつも以上に部員達に目を配り、声をかけていた。
理想以上のキャプテンだ。
「これで選抜も安心だな」
ああ、やっぱり良かったのだ。
私が言った事は間違っていなかったのだ。

そう思えば思うほど、何故だろう。
私は息苦しくなる。
間違っていないはずなのに、間違っている気がする。
昨日の仙道君のあの寂しげな声が耳から離れない。


完了:2014/7/25