最近は晴天が続くなと私は思った。 もう私は彼を捕まえに行かなくていいんだ。 今日もきっと体育館にもう来ているはず。 そう思っているのにどうしてか海の方を見てしまう。 catch & release 13日目。 「ゴメン、今日もちゃんと行こうと思ったんだけど。 どうしても海に足が向いちまった」 ダメだよなぁと彼は笑っていた。 変わったと思っていたのは昨日だけだった。 今日は彼はいつも通り海に来て釣りをしていた。 体育館に行ったら彼はそこにはいなかった。 来ていなかったのだ。 越野君は、「やっぱり仙道だからな」と笑っていた。 釣りをする彼の姿を見ながら、私は昨日の彼を、今までの彼を思い出す。 彼の事を考えないように、思い出さないようにと心に決めていたけどそういう訳にはいかない。 彼はバスケをしている時は、もちろんバスケは上手で、さらにリーダーシップもあって彼を見ていると自分も頑張らねばと思う。 彼に声をかけてもらえれば自分も出来るような気持ちになる。 それは私だけでなく、きっと皆同じだ。 そんな彼は、やっぱりバスケが好きなのだ。 そしてキャプテンとして皆に頼られる事も、皆の為に心を配る事も苦ではない。 ただ、毎日それをこなす為の準備が必要なのかもしれない。 彼にとって一人で過ごす、部活前のこののんびりとした時間は大事なのかもしれない。 「さて、そろそろ行かないとまた監督に怒られるな」 仙道君は竿を引き上げ、立ち上がった。 「どうしたの?」 彼が私を見て驚く。 「何で泣いてんの?」 「泣いてない」 別に涙は流していない。 流れそうではあるけど、そうなる前に手で拭った。 「ゴメンなさい」 顔は見られなかった。 下を俯いて、でもきちんと聞こえるようには言った。 「何が?」 「一昨日酷い事言ったから」 彼には何の事かわからないようだ。 「バスケ、止めたらなんて言って」 そこで彼はああ、と言った。 「いや、さんの言った通りだと思う」 彼は笑う。 「でも、俺はこう見えてもバスケは好きなんだ」 そうだね、今なら私もわかる。 もしかしたら好きなバスケを思う存分やる為に、サボっているのかもしれない。 多分そうなんだと思う。 いつも皆から慕われ、皆が傍にいる。 常に期待され、注目されている。 だから彼は一人になる。 授業と部活の間、バスケをする為に一人になる。 彼は考えてやっている訳ではない。 ただ本能的にそうしているだけなのだろう。 「でも、これじゃキャプテンは越野に譲った方がいいだろうな」 「そんな事ない!」 私が大きな声で遮ったので、彼は驚いたようだ。 「そんな事ない。 キャプテンは仙道君がいい。 やっぱり仙道君しかいないと思う」 結局涙を堪える事はできなかった。 話しながらも涙は頬を伝う。 私は彼を追い詰めてしまった。 彼は本能を無視して昨日は部活に参加したけれど。 やっぱりそれでは無理なのだ。 サボらない事は出来ない。バスケもやりたい。 そうなるとキャプテンを辞めるしかない。 私のせいでそんな事を言わせてしまった。 確かにサボってばかりで皆が頭を抱えるキャプテンだけど。 でも、やっぱり。 「サボってばっかだけど」 「いいよ、また探して捕まえるから」 キャプテンは仙道君がいい。 「マネージャーにそう言われるとサボってもいいのかなって思っちゃうよ?」 「うん、いいよ。 だって仙道君を捕まえるのはマネージャーの役目だから」 そう、私はその為にいるのだ。 私のこの言葉に、仙道君は嬉しそうに笑った。 体育館の前に着くと、彼は私を見た。 「オレ、先に体育館行ってるから後でおいで」 多分泣いてひどい顔をしてるんだろう。 「そうだね、ちょっと顔洗ってくる」 「そうしてくれると助かる。 さんのその顔見たら、監督に絶対『何やったんだー!!仙道っ!!』って怒られる」 「先生が?」 「だって先生、さんのこと可愛がってるし」 「そんな事ないと思うけど」 「あるって」 こうして彼は体育館へ入って行った。 そこから、『何やってたんだー!!仙道っ!!』という先生の声が聞こえてきた。 彼はいつも通り笑って謝っているのだろう。 天才でサボりがちなキャプテンが率いるのが陵南高校バスケ部。 それが最高の形。 |
完了:2014/8/16 |