個人ノートを鞄に入れて、マネージャーノートを手に職員室へと向かう。 いつもは忘れないようにと先に個人ノートを書き終えてから行くんだけど。 でも別に個人ノートは先生に提出する訳じゃないから後でもいい。 家に帰ってから今日は書きたい。 今日ならキャプテンの事もきっと書けるだろう。 catch & release 13日目・帰り。 この時間の職員室は先生達も少なく閑散としているものだけど、でもそれを感じさせないほど大きな人がいた。 どう見てもバスケ部関係者。 仙道君よりも大きいその人を私は見た事がなかったけど、思い当たりがあった。 彦一君から聞いていた人の特徴に一致している。 「先生」 その人の前に立っていた先生に私は声をかけた。 「ああ、来たか。 そうだ、紹介しよう。 こっちは前キャプテンの魚住だ」 「初めまして、マネージャーのです」 私は魚住さんに挨拶したものの、気もそぞろだった。 やっぱり前キャプテン。 前キャプテンが監督と話をしていた。 それは、もしかして。 「あの、キャプテンはやっぱり仙道君がいいと思います」 二人で話していたのは、キャプテンを変えるかどうかの相談をしていたのだと思った。 それは困る。 だって仙道君はバスケが好きで、そんな彼に皆キャプテンをしていてほしいと思っているのだ。 私は言葉を続けた。 「サボったり、遅刻したりしますけど、でも一番大事な時に一番頼れる人にキャプテンをしてほしいんです。 普段の事は私、出来る限りサポートしますから」 先生達は黙って聞いていた。 皆、仙道君の声を聞くと落ち着く。 彼の言葉には素直に頷く。 彼が出来ると言えば、不思議とそうかと思うのだ。 「だから、お願いします」 キャプテンは仙道君しかいない。 私は頭を下げた。 ポン。 大きな手が私の肩を叩いた。 顔を上げると魚住さんだった。 「そうだな、仙道がいいとオレも思う」 「私も同意見だ」 田岡先生も大きく頷いた。 「魚住とも話してたんだが、やはり上を目指すには仙道の力が必要だ。 仙道個人の力はもちろん、チームを引っ張っていく力がな」 上に、全国に行く為に。 彼の力が必要なのだ。 「だからこのままキャプテンを続けさせる。 サボり癖はなかなか直らんだろうがな」 そこで先生は大きく息を吐き、私を見た。 「マネージャーがサポートすると言ったんだ。 ま、何とかなるだろう」 先生はにやりと笑った。 「はい」 私も笑った。 「失礼します」 私と魚住さんは職員室を出た。 「遅くまで残ってたんですね。 受験勉強ですか?」 「いや、オレは受験はしない。 バスケ部を見てたんだ」 「え?今日ですか?」 「ああ」 全然気づかなかった。 そもそもこんな大きい人がいたら、そうでなくても前キャプテンだし。 絶対彦一君達が気づいて騒ぐはず。 「まぁ、こっそりとだけどな。 でも皆よく集中してたから気づかなかったんだろう。 仙道も前よりももっと身が入っているようだったし」 確かに皆今日もすごく頑張っていた。 昨日も良かったけど、今日はもっと良かったと思う。 仙道君は遅れて行ったけど、だから短い時間しかないと思って皆頑張るのだろうか。 私も遅れて入ったけど、皆私の事も見えていない感じだった。 「キャプテンの事をよくわかっているな」 「え?そ、そうですか?」 どうだろう。 わかっているかと言われると自信がない。 なんせ仙道君は海で泳ぐ魚のごとく、自由な人だから。 「ああ、部員達の事もよくわかってる」 魚住さんはそうも言ってくれた。 前キャプテンがそういうのだから。 もしかしたら私も少しはわかってきたのかもしれない。 「・・・マネージャーですから」 少しは私も自信を持とう。 皆の力になれるのだと。 私も陵南バスケ部の一員なのだから。 |
完了:2014/8/30 |