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いつものように仙道君は釣りをしていた。
最近、天気は安定している。
風も心地よい。
釣り日和だと思う。





catch & release 15日目。







「魚、釣れるの?」
そう言えば、一度も釣っている姿を見ていない。
「たまにね」
やっぱりそんなに釣れないのだろうか。
餌はあるから釣る気はあるのだろうけど。
「私も本でも持ってこようかな」
「え?」
私の言葉に仙道君は驚いている。
そう言えば私は彼の驚いた顔をよく見てる気がする。
「仙道君の釣りが終わるまで待ってようかと思って」
「キャプテンもサボってるのに、マネージャーも来なかったらマズイんじゃない?」
「マズイと思うよ」
そりゃマズイだろう。そう思って頷いたら仙道君が笑った。

「そう言えば、釣った魚ってどうしてるの?」
バケツも何もない。
あるのは竿と餌と小さな椅子だけ。
実にシンプルだ。
「海に返すんだよ。
 『キャッチ&リリース』ってヤツ」
「ふーん」
「何かそれってオレとさんみたい」
「どうして?」
「毎日サボってるのを捕まえ来るところが。
 で、またオレは明日もサボるんだけどさんがやっぱり捕まえに来る」
「別にリリースはしてないよ」
「でもサボらせてるだろ?
 本当なら授業終わったら首根っこ捕まえて、部活に参加させることもできるのに」
リリースとは彼にとってはサボらせてることを言うらしい。
「そう言われるとそうかなぁ」
だろ?と彼は言う。
「魚は自由に泳いでたいと思ってると思うんだよ。
 特にオレみたいなのに釣られたくないってさ」
そうだろうな。
「でも、オレはそうでもないかな。
 そこがオレは魚と違う」
「釣られてもいいってこと?」
確かに魚とは違うだろうケド、だからと言って魚との自分の違いを説明する人間は私は仙道君以外知らない。
でもそんな事よりも、驚いたのはこの言葉。
自由が好きそうな彼には意外な感じ。
さんに捕まるんならいいよ」
「でもリリースされたいんでしょ?」
「だってリリースしてくれるだろ?」
うーん、仙道君のような元気で大きな魚を入れとく水槽は私には用意できないし。
「仙道君が魚ならリリースするしかないって気がする」
「じゃ、やっぱりさんじゃないと」
だから釣りに来てよと彼は笑った。


完了:2014/9/13