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どこの学校にも1人や2人、個性的な生徒や先生がいる。
ウチの学校であれば、1人はバスケ部のエース。
そしてもう1人はオレの彼女。
「植草、のヤツまたやったんだって?」
「しょうがないよ、それがだから」
そう返事をしつつ、オレは軽く溜息を吐いた。





ホンモノ主義







、またやったんだって?」
「智ちゃん、だって仕方ないじゃない。
 生活指導って何の為の指導な訳?
 私はこのスタイルが気に入ってんのに」
バンドを組んでいるせいなのか、若干奇抜、いやハデな服装をは好む。
学校の外ならば問題がないが、学校内では大問題なわけで。
しかも。
「だからって髪がピンクだったら、どんな先生だって注意すると思うぞ」
そう、の頭はピンク色だったのだ。
髪は短い(に『ベリーショートって言ってよね』と言われた)が、これはかなり目立つ。
「せめて茶髪くらいにしたらどうだ?」
茶髪だって生活指導の先生には注意されるが、ピンクよりはましだろう。
「でも茶髪って私のイメージじゃない」
憮然とした顔で彼女は言う。
「日本人はもっと個性的になるべきなのよ!」
彼女の口癖だ。
ちなみにピンクの頭の他に耳につけたピアスもいつも注意されている。
1つくらいなら先生も見逃すんだろうが、目立つ物が3つも4つもあるのでは注意せざるを得ないのだろう。
その他も色々あるが先生もいちいち注意するのが面倒らしく、とりあえず目立つ頭とピアスだけが今のところよく言われている。
「学校ってそういう個性をダメにするとこだと思うんだよね。
 本当の私が生きてこないじゃない。
 それなのに明日までに真っ黒にして来いなんてあんまりよっ!!」
こういう話を聞くとオレはいつも疑問に思う事がある。
個性は大事だし、は自分を個性的だと思っているのはわかる。
そして個性的な人間が好きだというのも。
「なぁ、
「何?智ちゃん」
「何でオレと付き合ってんの?」
とオレは付き合いが長い。
小学生の時にから告白され、今に至るのだからもう5年くらいになるだろうか。
その間、さして大きな問題はなかったけど最近オレは思うんだ。
にはもっと似合うヤツがいるんじゃないかと。
歌の事はオレにはさっぱりわからないが、どうやらのバンドは人気があるらしい。
ライヴを開けばかなり客が入るらしい。
そうでなくとも他人に媚びないは元々人気があった。男にも女にも。
ただ、髪が短いせいなのか、さっぱりとしすぎる気性からなのか男からは恋愛対象にならなかった。
そんなだが、最近は違う。
は変わっていない。と思う。
ただ周りがの魅力に気づいたのかもしれない。
最近、はもてるらしい。
ハデな格好のバンド男が告白したという話がオレの耳によく入ってくるようになった。
もちろん全て断っているようだけど、そういう話を聞くたびに思うのだ。
「何でって、そりゃ智ちゃんが好きだから・・・」
小学校からオレはバスケをやっていて、その頃はそれなりにうまかった。
クラスのエースだった。
だからはオレを好きになってくれたんだと思う
だけど今のオレは、その頃のオレとは違う。
もちろんバスケは続けているし、うまくなろうと努力もしている。
だけどオレはもうエースじゃない。
仙道や福田を見て、自分の才能や能力の限界がわかっている。
オレに出来るのはミスを少なくし、いかに試合をコントロールしていくかを常に考える事。
つまらない地味な選手でしかないんだ。
の好きな、個性や派手さはオレには無縁なんだ。
「オレはとはかなり違う。
 好きな物も、考え方も」
「智ちゃん?」
「いつも言うけど。
 もし本当に個性的な人間になりたいなら、服装じゃないとこから目指した方がいい。
 自分の実力がつけばどんな姿で何をしていても誰にも何も言われない。
 仮に何か言われたって気にしないと思う。
 形から入るのは間違ってるとオレは思う」
何かを成し遂げたいなら、見た目ではなく中身が大事だ。
仙道を見ていると本当にそう思う。
が俯く。怒っているのかもしれない。
「オレはこんな考えだから、とは合わないと思う」
「私の事、嫌いになった?」
「そうじゃないけど、でも毎回同じ様なこと言われるの嫌だろ?
 だけどオレは付き合っている限り同じことを言うよ。
 だから、はもっと話の合うやつがいいと思ったんだ」
オレは先生に怒られたに先生と同じ様な事を言う。
はオレに先生やお母さんと同じこと言わないで、と反論する。
そこでいつもケンカになる。
これの繰り返しだ。
オレは自分の言ったことを間違っているとは思わないけど、にだって考えがある。
毎回を傷つけているようでオレも辛い。
だから。
、オレたち別れた方ががいいんじゃ」
「わかれないっ!」
オレの言葉を彼女は鋭い声で遮った。
「絶対に智ちゃんとわかれないよ!」
「あのな」
「智ちゃんが大人しい格好しろって言うならするよ。
 だから、そんなこと言わないで・・・」
の大きな目から涙が溢れる。
オレはそれを服で拭いながら、言った。
「別にに大人しい格好をしてほしいんじゃないって。
 ピンクの頭だってに似合ってるよ」
「でも」
「でもとオレは似合わないと思う。
 オレはバスケ一筋で、みたいな個性的な人間でもないし」
「・・・智ちゃんはバスケ一筋で個性的だよ?」
「オレが?仙道とかなら個性的だと思うけど」
「智ちゃんは自分で気づいてないんだよ。
 バスケ一筋っていうのが個性だと思うよ。
 バスケの事はよくわかんないけど、智ちゃんらしいバスケをしてるじゃない。
 智ちゃんはきちんと個性的だから私みたいに格好なんて気にしてないだろうケド。
 それがすごく格好いいんだよ」
思ってもいなかった言葉が返ってきてオレは何と言ったらいいかわからなくなってしまった。
「私は中身がないから、形から入るしかないけど。
 智ちゃんはホンモノだから。
 だからカッコいいんだよ」
何だかさっぱりわからなくなってしまった。
わからないけどからすればオレはホンモノの個性が確立しているように見えるらしい。
「オレが本物かわからないけど、に中身がないとは思ってないよ」
「え?」
「まだ詰まりきってないだけだ。
 なら自分の目指しているものにたどり着けるよ、絶対」
「智ちゃん」
形から入らなくったって十分彼女は個性的だと思う。
そんなピンクの頭をしなくても、耳にピアスを何個もあけなくたってだ。
どんなに大勢の中にいても埋もれるとは思わない。
少なくともオレは絶対に見つける自信はある。
腕の中のの暖かさを感じながらそんなことを思った。

、お前・・・その頭」
「智ちゃん、似合う?」
次の日の朝、あのピンク頭がものの見事に真っ黒になっていた。
「また、思い切ったな」
「うん、でも黒に染めたら染めたで結構気に入ってんだよ」
「そうなのか?」
「だって智ちゃんとお揃いじゃん」
「・・・まぁ、日本人の大半とはお揃いかな」
隣をの頭を見ていて、もう一つ気になる事があった。
「な、何?智ちゃん」
突然耳を触られてビックリしたらしい。
だけどその事には構わずオレは反対側の耳を見るため髪をかき上げた。
「ピアスも取ったのか?」
あの3つも4つもあったピアスが全てなくなっていた。
「ああ、うん。
 別にいらないかなーと思って」
そう言われると全体的にいつもと違う気がする。
いつもジャラジャラつけてるアクセサリーもない。
突然の変わりようにオレは目を丸くするしかなかった。
何も言えないオレには笑った。
「何にもないってのも結構個性じゃない?」
「・・・そうかもな」
とりあえずこれで先生達も一安心だろうし、だって注意されたと毎回オレに怒りをぶつける事もなくなるだろうから、良かったのだろう。
「でもさ、あたしの一番の個性って言ったらやっぱりあれだよ」
「何?」
にやりとが笑う。
こういう時のの考えはオレにはさっぱりわからないから考えない事にした。
「智ちゃんを好きだって事!!」
朝の登校途中での大声での告白に、オレが慌てたのは言うまでもない。


あとがき。
ホンモノ主義
完了:2014/7/10