僕が泣かせてしまった女の子。 思い浮かぶのは彼女の泣き顔ばかり。 どうやったら彼女の笑顔を思い出せるだろうか。 確かに恋だった 「あら、今からお出かけ?」 今日は午後からブチャラティと打ち合わせだった。 そこで学校から帰ってきた彼女とすれ違った。 「ああ、今日はこれからなんだ」 「夕飯はいらない?」 「そうだね、今日は外で食べるから」 「じゃあ、気をつけて。 いってらっしゃい」 彼女に見送られ、僕は歩き出す。 僕は彼女のアパートに住んでいる。 彼女、は亡くなった両親からアパートを継いだ。 遠くに親戚がいるらしいが彼女は一人で住み、この小さなアパートを維持している。 は僕のことについて、何も聞かない。 家のことも、親のことも、学校についても、どうやって生活しているかについても。 ただ僕が大学を中退したことだけは、何かのきっかけで話した。 その為、時々は彼女の勉強を僕は見たりもした。 彼女が僕に聞くことと言えば、何が好きか、何がしたいか、何に感動するのか。 時間が合えば、僕らはよく食事を一緒にする。 その時にそんな話になるのだ。 あんな話が何になるのかわからない。 でも彼女は聞きたがる。 「おかえりなさい」 僕がアパートの階段を登っているとが下りてきた。 「帰ってくるのがちょうど窓から見えたの」 「ただいま」 手に持っていた箱を彼女に差し出した。 「お土産買ってきたんだ」 「ありがとう、何かな」 「角の店のケーキ。 好きだったよね?」 「うん、嬉しい」 本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる彼女に、僕も思わず微笑んだ。 「ねぇ、一緒に食べよう」 「いいけど今から?」 今はもう22時過ぎ。 食べるには遅い時間だ。 「いいじゃない、たまには。 美味しいものは美味しいうちに食べないと」 よくわからない理屈をこねながら、彼女は僕を部屋へと引っ張っていく。 「それにしても珍しいね。 お土産なんて。 何か良いことあった?」 「いや、そういう訳じゃあないけど。 何となくそんな気分だった」 「へぇ」 ブチャラティは明日、誰かを連れてくるらしい。 チームに人が増える。 どんなヤツだろう。 「またいつ仕事で留守にするかわからないから。 管理人には世話になってるからね」 「そうそう、たまには美味しいものおごって貰わないと部屋がなくなってるかもね」 「ちゃんと家賃は払ってるじゃあないか」 「そうよね、お金の出どこが気になるとこだけど」 うっと言葉に詰まる。 少しの沈黙の後、僕は小さく言った。 「・・・聞きたい?」 「聞かない。 その方がいいんでしょ?」 ほっと一息吐いた。 理由なんて何とでもでっち上げられるけど。 でも彼女に嘘はつきたくなかった。 「さ、ケーキ食べよう?」 「ああ」 あれから数日。 僕はアパートの前にいた。 まだ変わったところはないらしい。 そうだろう、あのボスを捕まえるには時間がかかるはずだ。 仮にボスの正体を知ったとして、それからどうなる。 組織に追われ、彼らはいずれ消される。 僕は間違っていない。 そう思っているのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「フーゴ?」 名前を呼ばれ、僕は急いで後ろを向いた。 油断していた。 だがそこにいたのは。 「・・・」 「帰ってきたの?」 彼女が僕に手を伸ばす。 思わず一歩退いた。 「どうしたの? 大丈夫?」 を警戒するなんてどうかしている。 そうは思っても、心臓の鼓動が早い。 僕は組織は裏切っていない。 だから追っ手がかかることもない。 なのになんだ、この気分は。 どうして僕が追い詰められているんだ。 「本当に大丈夫?」 僕には彼女の声が聞こえなかった。 ただもうここにはいられないと思った。 ここを出なくては。 急いで荷造りを始めた。 「ど、どうしたの? また仕事?」 荷物は極力軽くして。 どこへ向かえば良いのか。 「フーゴ!」 そこで僕はに気づいた。 「ね、どうしちゃったの?」 彼女が僕に近づいてくる。 そして僕の手を握った。 「おいで」 手を引かれるまま彼女の部屋へと入った。 「ここなら大丈夫でしょ?」 何も大丈夫じゃあない。 そう言いたかったけど止めた。 何をそんなに怯えているんだろう。 だけど震えが止まらない。 そんな僕をが抱きしめた。 「大丈夫、フーゴ。 大丈夫よ」 大丈夫じゃないんだ、。 でもそれは言葉にならなかった。 彼女が僕の顔を覗き込む。 そのままキスをされた。 僕はされるがままだったが、やがてそれに応えるようにキスを返した。 少しずつ熱を帯びてくる。 こんな時に何を考えてるんだ。 だが行為は止められない。 手を彼女の体に伸ばす。 片手は胸元に、片手は腰に。 彼女のブラウスのボタンをそのまま外した。 キスはまだ続いていた。 そして僕は露になった胸にもキスをした。 「フーゴっ」 そこで制止の声が聞こえたが、聞かなかったことにした。 腰に回した手が彼女のふとももを触る。 「んあっ」 耳を甘噛みすると彼女の口から声が漏れた。 耳元で囁く。 「」 「んっ」 真っ赤になっている。 どうやら耳が弱いらしい。 じゃあこちらはどうだと胸をゆっくりと揉みしだす。 突起物が手に当たったので、くりくりと指先で弄ってみた。 「んん、やあっ」 可愛い声が聞こえてくる。 本当にこんなことをしている場合じゃあない。 わかっているのに体が言うことを利かない。 理性が本能に負けていて、しかも理性までも「それでもいいか」と思ってしまっている。 僕たちはそのまま長い夜を迎えた。 朝方、彼女は隣で寝息を立てていた。 きっとまだ起きないだろう。 僕は静かにベッドから抜け出し、脱ぎ捨てていた服を拾い上げる。 服を着ると途中で放り投げていた出発の準備に取り掛かった。 極力静かにしていたつもりだった。 だが気配は消せなかったんだろう。 が部屋の戸口から僕を見つめていた。 「行っちゃうの?」 「うん、ここにはもういられない」 「また帰ってくるんでしょ?」 「・・・いや、ここにはもう来れない」 そう言うとが駆け寄ってきた。 「一人にしないで」 「・・・」 僕は彼女を強く抱きしめた。 彼女の匂いを、その感触を忘れないように。 「ごめんっ」 そして僕は彼女を置き去りにする。 「フーゴ!」 呼ぶ声が聞こえたが、僕は無視した。 振り返ったらきっと離れられなくなる。 アパートを出て近くの車に乗り込む。 その際、ちらりとアパートを見上げた。 すると窓から彼女がこちらを見ているのに気づいた。 泣いている。 僕が泣かせた。 本当ははよく笑う女の子だった。 それなのに僕が思い出すのは泣き顔ばかりだ。 「フーゴはアパートは決めたのか?」 ミスタに問われ、まだだと答えた。 「今日下見に行ってきます」 ジョルノを新しくボスとした組織が動き出した。 僕はありがたいことにまたパッショーネの一員として働くことができることになった。 今まで以上に組織に、ジョジョに尽くしていこうと決意していた。 「お前、また昔と同じアパートにすんのかよ」 「ええ、そのつもりです」 はどうしているだろうか。 まだ泣いているだろうか。 それとももう笑顔でいるだろうか。 「行ってきます」 アパートの概観は変わっていなかった。 ここにがいる。 そう思うと緊張してきた。 とにかく行かなくては、 行って謝って、それから。 それからどうすればいいのか、正直迷っていた。 ミスタにはアパートを借りに行くと言ったが、それは建前で。 本当はに会いに来たんだ。 迷ったままアパートの扉を開けた。 そこに人が走ってきた。 その人物を見て僕は動きが止まった。 それはだった。 は僕の前で足を止める。 彼女もアパートと同じく変わっていなかった。 いや、少し痩せたかもしれない。 対面したところで何か言わなくては、と思うが言葉が出てこない。 「あの・・・」 次の瞬間、彼女に抱きしめられていた。 「・・・」 「もう会えないのかと思ってた。 でも良かった。 待ってて良かった・・・」 「ごめん、。 待たせてごめん」 僕も彼女を抱き留める。 彼女の視線と僕の視線が絡み合う。 また泣かせてしまった。 そう思っていると、彼女が微笑んだ。 「傍にいて、フーゴ。 出来る限りでいいから。 一緒にいて」 その笑みに僕は瞳を奪われる。 この笑顔だ。 僕の好きな、彼女の微笑み。 心に焼き付けておこう。 何があっても思い出せるように。 「ずっと一緒にいるとは約束が出来ない。 でも出来る限り一緒にいる。 君の傍にいるよ、」 抱きしめていた腕に力を込める。 僕はジョジョに全てを捧げた身。 彼に何かあればこの身を、人生の全てを投げ出す覚悟がある。 そんな僕がの為に捧げられるものがあるとすれば。 唯一この想いだけ。 他には何もない。 それでもこの想いは、確かに恋だった。 |
あとがき。 |
確かに恋だった |
完了:2014/9/13 |