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最初に声を掛けたのはオレだった。
どこからか視線を感じ、見上げた瞬間微笑んだ女。
美しい顔に似合わぬギラリとした瞳の持ち主。
それが情報チームのだった。





確かに恋だった


















「私は敵を探してるのよ」
初めて会った時から彼女はそんなことを言っていた。
だからこんな強い瞳をしているのかとオレは一人で納得した。
彼女の敵が誰なのかオレは知らなかった。
彼女はそれ以上何も言わなかったし、オレも聞かなかった。
それでいいと思っていた。
今が楽しければ良いと。
彼女が傍にいてくれればそれで良かった。

「ミスタ、彼女の様子はどうですか?」
パッショーネのボスとなったジョルのがオレに声をかけてきた。
「ふふん、もうオレに首っ丈だぜ?」
「そうなんですか?」
「おうよ」
大きく頷いた。
それを見たジョルのが「それならいいです」と去っていった。
オレは先ほどのジョルノの顔が気になった。
それならいいです、なんて言いながらそういう顔つきじゃなかった。
アイツのポーカーフェイスはいつものことだが、オレにはわかった。
何か隠してやがる。
ジョルノの後を追った。
「なんか、言いたいことがあるんじゃあねぇか?」
ジョルノの部屋へとドアをノックもせずに入った。
別段驚きもしない様子で、ジョルノは椅子に座った。
机の上にはたくさんの書類が積み重ねられている。
「彼女、の噂を耳にしただけですよ」
「噂?
 何だよ、本当は裏切り者だってのか?」
そんなハズはない。
彼女は情報チームの一員としてボスに尽くしている。
それは以前も今も変わらずに。
「いや、そうじゃあない」
ジョルノは机に肘をついた。
「彼女の恋人について、です」
「あんな美人なんだから、過去に男の一人や二人、いるだろうな」
もっといるかもしれねぇなあ、とオレは言った。
「それが暗殺チームの一人だとしたら?」
オレの顔をジョルノが見ている。
表情を伺っているのがわかった。
そしてオレは、ポーカーフェイスが下手だった。
「恋人ではないらしいが、執着していた人間がいたようです」
「・・・そうなのか?」
「ええ。
 僕は直接は知らりません。
 が、君は知っているはずです」
ジョルノが知らなくて、オレが知っている男。
「プロシュート、という男らしい」
それで思い出した。
オレの頭に3発もくれやがった男だ。
そのことはよく覚えているが、顔は定かではない。
あの時オレは、ヤツの能力で老化させられていたのだから。
「彼女は敵を討とうとしている」
「でもヤツはブチャラティが」
「ええ、でももしそのことを知ったとして納得しますか?
 それとも他に敵を探すんじゃあないですか?」
そうだろう、きっと彼女は次の敵を探す。
それはきっと。
「オレだな」
ジョルノが頷くのが見えた。

「敵は見つかったのか?」
オレはの耳元で囁いた。
今日はオレの部屋で二人、静かに酒を飲んでいた。
邪魔が入る心配がなくていい。
「いいえ、まだよ。
 あなた何か知っているの?」
「いいや、でも君の敵が何なのか気になる」
「つまらない話よ」
「いいさ、教えてくれよ」
「・・・以前、ちょっと良い男がいたのよ。
 見た目がね。
 だから声をかけてみたんだけど。
 簡単に振ってくれたのよ、この私を」
「君を?
 そりゃあ、女を見る目がねぇんじゃあねぇか?その男」
「そう思うわよね?
 どうやっても彼は私に振り向かなかった」
「そんな男忘れろよ」
そっと彼女の太ももに手を伸ばす。
が、ぱしっと音を立てて払われた。
「痛ぇな」
「話を聞く気、あるのかしら?」
「あるある。
 で、どうなった?」
諦めずにの腰に手を回した。
今度は振り払われなかった。
「どうにもならなかった。
 彼女がいたのよ」
「え!?」
思わず大きな声が出てしまった。
プロシュートに女がいた。
てことは他にもオレたちに復讐しようとしている人間がいるかもしれないってことか?
「何をそんなに慌ててるの?」
「いや、別に。
 で、彼女がいたから諦めたのか?」
「私が彼から奪えたのはキス一つだけ。
 結局彼に相手にされなかった」
「それでオレに慰められたいと」
ふふふ、とが笑う。
「彼ね。
 すごくプロ意識の強い人で。
 最後の最後まで、死ぬ瞬間までその役割を全うしようとしたのよ」
「・・・死んだのか」
「殺されたのよ」
彼女は俯いた。
オレはそんなの肩に手を置く。
「悲しいのか?」
少しの沈黙の後、彼女は顔を上げた。
そこには、笑みが。
「いいえ、嬉しいのよ。
 私でも彼の役に立つことが出来て」
が拳銃を取り出す。
オレは後ろに退いた。
「無駄死に覚悟ってことか?」
「無駄死に?
 いいえ、ここであなたは死ぬのよ。
 そしてボスも殺す」
「ジョルノも?」
「あなたに彼を殺すように命令したのは、ボスでしょう?」
「情報チームのくせして、間違った情報掴みやがって」
「間違ってなんかいない。
 彼を殺したヤツラは皆殺しよ。
 もうブチャラティはいない。
 あんたは私の敵よ!」
のスタンドがどんなものだったか、思い出せない。
だが情報集めに特化したものだったハズだ。
オレのピストルズが負けることはない。
「なあ、止めようぜ?
 今ならオレはジョルノには何も言わない。
 昔の男のことで、自分の人生失ってもいいのかよ」
オレは一歩近寄る。
「構わない!」
彼女の銃口がオレの頭を捉えている。
「もう失って惜しいものなど何もない」
そう言って撃った。
「ピストルズっ!」
向かってくる銃弾を逸らす。
「くっ!?」
「オレには効かねぇんだよ、
 知ってるだろ?」
そうだ、がオレのスタンドを知らないとは思えない。
オレはさらに一歩進む。
「止めようぜ?」
観念したのか、銃を下ろした。
その顔を見ると涙を流している。

「ミスタ、私どうしたらいいの?
 彼を失って、どうやって生きていけばいいの?」
彼女の顔を両手で包み込んだ。
涙を流しても女性ってのは綺麗なもんだ。
「オレの傍にいればいいさ。
 そうしたら毎日楽しく暮らせるぜ?」
がオレに抱きついてきた。
オレもそれを受け止める。
彼女の体温がオレに伝わってきた。
暖かい。
キスがしたい、と思った瞬間。
「ミスタっ!」
No.5の声が聞こえた。
「オレには効かねぇってさっき言ったよな」
が俺の背中に回した手で、銃を発砲していた。
「油断していたはずなのに」
思い出した。
彼女は触れたものの考えを、感情を、記憶を読み取るスタンドだ。
だからはオレに近づいてきたのか。
ジョルノの周辺にいるヤツから情報を仕入れる為に。
プロシュートの敵を知るために。
「私を騙したのね!
 そしてわざと銃も取り上げなかった。
 そうでしょ?」
ああ、そうだ。
オレは心の中で答えた。
「離せっ」
を抱く腕に力を込めた。
腕で彼女の手を挟み、銃を撃てなくする。
「これで最後だ。
 もう止めろ」
「NO!」
オレは彼女の唇を塞いだ。
長い長いキスが続く。
は抵抗していたが、諦めたのか徐々にオレを受け入れた。
ゴトン。
彼女の手から銃が落ちた。
それでもまだキスは止めなかった。

「あなた、変な人ね」
キスが終わって開口一番そう言われた。
「そうか?
 オレは普通のイタリア男さ。
 今だってどうやって君をベッドに運ぼうか考えてる」
「呆れた人。
 自分を殺そうとした女を抱くつもり?」
「ああ」
はもう泣いてはいなかった。
笑ってもいない。
涙の後が残っていた。
オレはそれを指で消した。
「他の男を想って泣く女を抱こうとしてるんだ」
腕の中の彼女はいつも以上に細く小さく感じた。
「・・・私、消されるのね」
「消されたいのか?」
「それでもいいわ」
抱きしめていた腕を緩め、彼女の顔を正面から見た。
「呆れたな。
 そんなに良い男だったのかよ、ソイツは」
「ええ、そうよ」
「オレだって良い男だろう?」
「あんたは変な男よ」
「ひでぇな」
「あーあ、私だって良い女だったのに。
 こんな変な男に捕まるなんて」
「そりゃあ、お前も変な女なんだろ?」
「失礼ねっ」
「さ、続きはベッドの上にしようぜ」
「本当に呆れるわ」
そうして唇を重ねた。
熱い熱い、キスをする。


「彼女の復讐は終わったんですか?」
あくる日、ジョルノに呼び出された。
ヤツは勘がいい。
察したのだろう。
「まぁ、そんなとこだ」
オレは腰をさすりながら答える。
「人の本心はわかりません。
 どうしたものか」
「おいおいおい。
 まさかを始末するってんじゃあねぇだろうな」
「必要であればそうします」
真顔でさらっと言いやがる。
全くコイツは変わっていない。
「君は彼女の手のひらで踊らされているかもしれない。
 彼女のスタンドは心を読むらしいですからね」
「だーいじょうぶだって。
 ちゃんと首に縄つけておくからよ」
「君の首に?」
「違うってーの!」
ジョルノが見える範囲にいる場合はにピストルズが付いている。
何故だかNo.5とは仲が良くなっていた。
オレがヤキモチを焼くくらいな。
「ミスタ、が今日の夕食どうするって?」
「No.6、にちゃんと付いとけって言ったろ?」
「今、No.5がいるから大丈夫」
「そうかよ・・・」
彼女の復讐心が治まったかどうかオレには実のところわからない。
だが彼女は笑顔を見せた。
まるで少女のようなはにかんだ笑顔を。
彼女のプロシュートに対する想いは恋だったに違いない。
一途でまっすぐな、実らなかった彼女の想い。
それでもオレのこの想いも負けはしない。
この想いだって確かに恋、間違いなくそうだ。
いつか全て彼女の心に届くように。
彼女の手を握り続けよう。


あとがき。
確かに恋だった
完了:2014/8/23