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「まずは見つめる。
 ただ見るだけじゃあダメだぜ。熱い視線で見つめるんだ。
 そこで笑うなよ。雰囲気が大事なんだからな。
 で、腰は無理だろうから肩を抱き寄せて。
 キスをする。
 帰りには忘れずに次の約束を取り付けろよ」
「無理じゃあねぇか?
 手を繋ぐぐらいにしとけよ」
ミスタとアバッキオにからかわれたのが昨日。
今日、オレはベティと初のデートだ。





どうしよう可愛すぎる















オレはいつもよりも大分早起きして約束の時間になるのを待った。
早起きして、というよりは実は殆ど眠れなかったので寝るのを諦めて起きただけだ。
今も走り出したい衝動を必死で抑える。
時計を見ると後1時間もある。
あんまり早く行き過ぎてもよくねぇだろうし、
「女性は身支度に時間がかかるから、遅れてきても怒らないように」
なんてフーゴも言ってたし。
オレは無駄にエアロ・スミスを飛ばして時間が過ぎるのを待った。

「よし、もういいだろ!」
約束の15分前。
車で行くんだからちょうどいいだろう。
オレは走って車に乗り込んだ。
車は昨日掃除をして綺麗に片付けてある。
さぁ、迎えに行くぞ。


ベティの家の花屋から少し離れた場所で車を止めた。
まだ彼女は来ていない。
約束まで後10分。
ちょっと飛ばしすぎたかと思う。
すると花屋から勢いよく飛び出してくる人物がいた
ベティだ。
「ごめんなさい、遅れた?」
そう言って申し訳なさそうな顔をする。
「いや、オレが早く着いただけでまだ時間あるから」
オレはいつもと違うベティに戸惑う。
いつもは花屋のエプロンにTシャツ、ジーンズ姿のベティが、今日はワンピースを着ていた。
それがよく似合っていて、胸がどきどきして苦しい。
気を紛らわせようと他に目をやる。
そこで彼女が大きなバスケットを持っていることに気づいた。
「それは?」
「これ?
 一応お昼にと思ってサンドイッチ作ったの。
 でもあんまり上手じゃあないから期待しないでね」
と照れくさそうに笑う彼女にオレの目は釘付けだった。
ヤバイ。
こんなことでオレは一日もつのだろうか。


そんな訳でオレとベティはブチャラティからもらったチケットを手に、遊園地に向かった。
ジェットコースターに乗ってはしゃいでいる姿、休憩にジェラートを食べる姿。
どのベティも新鮮で目が離せない。
せっかくの遊園地だけど、それ以上にベティは可愛かった。
オレはベティの作ったちょっと不揃いな、でも美味しいサンドイッチを食べながら思う。
穏やかな幸せってこういう事なんだろうな。
今、17歳だけどもうすぐ成人する。
そしたらどこか落ち着いたところに家を買って、そこでベティと暮らせたら。
「どうしたの?
 何か楽しい事でもあった?」
ベティに話しかけられ、はっとする。
どうやらにやけていたらしい。
「べ、別に。
 何でもねぇよ」
「そう?」
そうして首を傾げるベティにオレは。
そんな可愛い仕草するんじゃあねぇ!と心の中で叫んでいた。

「ねぇ、最後にあれ乗ろうよ」
彼女が指差したのは観覧車。
オレがどうやってそれに誘おうかと思っていたので、ありがたい。
ミスタ曰く、一番のチャンスの場所だそうだ。
でも、一番のチャンスって何のだ?
まぁいい。
オレとベティは観覧車に向かった。

観覧車は程よく空いていて、少し待ったら乗る事ができた。
「私、観覧車好きなんだよね。
 高いと遠くまで見渡せるのがいいよね」
楽しそうにベティがそう言うがオレはそれどころじゃあなかった。
中はもちろん密室。
後少しで膝がつくくらい近い距離。
そしてミスタの言葉が蘇る。
<キスをする>
ベティを盗み見ると彼女は普段通り。
特に緊張している様子もなく、はしゃいでいる。
そもそも彼女はオレの事をどう思っているんだろう。
デートに誘って来てはくれたものの、ひょっとしたら友だちだと思ってるんじゃあねぇのか?
最悪オレの気持ちに気づいていない。
「ね、ナランチャ?
 さっきから何考え事してるの?」
もうすぐ頂上だよ、と外を見ながら彼女が言う。
告白しないと。
キスの前にまず自分の気持ちを伝えねぇと。
「あのさ、ベティっ」
オレは狭い観覧車の中でおもむろに立ち、そして頭を天井にぶつけた。
「痛ぇ!」
「だ、大丈夫?」
思いっきりぶつけた。
絶対こぶになってる。
「見せてみて」
ぶつけたところをベティが見てくれる。
「こぶになりそう。
 冷やした方がいいね」
やっぱり。
そう言おうと顔を上げると、超至近距離にベティの顔があった。
「「あ」」
少し見つめあった後、離れようとするベティの肩を押さえた。
「ナ、ナランチャ・・・」
「あのさ、オレ」
またドキドキしている。
今日どれだけオレの心臓は動いているんだろう。
オーバーヒートしないか心配になるくらいだ。
「ベティが好きだ」
言った。
オレは言ったぞ。
面と向かって言えたぞ。
ベティはと言えば、顔を真っ赤にしている。
「ありがとう」
なぜか少し涙目で彼女は頷いた。
それが可愛くて。
可愛くて。
どうしよう、可愛すぎる。
オレは観覧車から降りるまで、ベティの顔を見ることが出来なかった。


結局オレはミスタに言われた事は何一つ出来なかったけど。
それでもいいと思った。
今はこれで良かった。
少しずつ進んでいけばいい。
そしていつか。
今日描いた夢が現実になるよう。
それまでオレは彼女の傍にいよう。


あとがき。
どうしよう可愛すぎる(「確かに恋だった」さんのお題)
完了:2014/11/2