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「ね、あそこにいる二人すごい美男美女っ」
の友だちの視線の先にいたのは。
一人は確かに美女。
明るい金髪、大きく胸元の開いた服はセクシーで、そこから見えるすらりとした足が美しい。
そしてもう一人は。
一見してモデルのような姿、顔立ち。
よく知ったその顔は、プロシュート。




キスは一日三度まで















は目の前の光景が信じられなかった。
今日は仕事だと言っていた。
私も昼は友達と食べるから。
だから夜に会おうと言っていた。
そうして朝キスをして出かけたというのに。
そのプロシュートが目の前で女性と親密に何かを話している。
それでもはまだ冷静だった。
仕事なのかもしれない。
彼の仕事についてはよくわからない。
打ち合わせの相手が単に美人だったのかもしれない。
どくんどくんと打つ鼓動を抑え、そう考えた。

「ね、面白い光景でしょ?」
「何も面白くはねぇな」
「あら、意外。
 彼女にばれて、胃でも痛くなったの?」
プロシュートはふんと鼻を鳴らした。
仕事の情報を持ってるのがこの女でなけりゃ。
女はプロシュートを連絡相手として指名し、尚且つ場所も指定してきたのだ。
嫌な予感はしていた。
だからと言ってリーダーであるリゾットの言葉に逆らう訳にもいかない。
まさかが悲しむから、女には会えないなんてことは口が裂けても言えない。
「で、情報は?」
プロシュートが声を低くした。
「ここよ」
女の手のひらにチップがのっていた。
「渡してもらおうか」
「ただじゃあダメよ」
やはり交渉が必要らしい。
「いくらいる?」
ある程度までなら出して構わないとリーダーから許しを得ていた。
だが、女の希望はプロシュートの予想とは違っていた。
「そうね、あなたがいいわ」
美女が何か含みのある視線を投げてよこす。
「オレは物じゃあねぇ」
「大まけにまけて、キス一つでいいわ。
 もちろんココでね」
ふざけんな、おめぇら情報チームの仕事はそれだろうが。
と言ってやりたかったが、情報があちらの手の上では強くは出れない。
何せ次のターゲットに関する重要な情報だというのだから。
「見たかったのよねぇ、プロシュートのその顔」
目の前の女は嬉しそうに微笑んだ。

「目立つ二人だね。
 しかも至近距離で話してるし、二人の世界って感じ」
何も知らずにの友だちはそんなことを言っている。
知るはずはない。
プロシュートのことは誰にも内緒だからだ。
恋人とは言えない。
言えるとしたら、自分は彼にとって都合の良い女だろう。
彼の会いたい時には会うことはできるが、が会いたいと言って会うことは難しい。
それでも最近彼は仕事とは別に携帯を持ったので、それに連絡することはできるようになった。
だから以前よりは多少距離が縮まったとは思っている。
だが今この光景を見る限り、それは気のせいだったのかと思わされる。
プロシュートに他に女がいる。
それは最初からわかっていたことだ。
きっと彼には他にもいるだろうと。
彼は何も言わないがそうに違いない。
それでも構わないと思っていた。
会いに来てくれればそれでいいと。
だけどいつの間にか独占欲が少しずつ出てきた。
私だけの彼になってほしいと思うようになっていた。
だけど、そんなことは言えない。
彼の重荷になる女にはなりたくなかった。
「あ、」
だが目の前の二人はそんなの思いをあざ笑うかのように、唇を重ねていた。

プロシュートは強引に女の唇を奪った。
そして女がうっとりとしている間に、その手からチップを取り上げる。
「これで満足したろ?」
「せっかちな男ね」
女がまだ何かを言いたそうだったが、彼は席を立った。
がどんな表情をしているのか。
怒っているのか、泣いているのか。それとも。
彼はを見れなかった。
足はアジトへと急いで向かっている。
さっさと切り上げてのご機嫌をとらねぇとな。
ショックを受けているであろう彼女の為、プロシュートは足を早めた。



チップの中身のデータについてはリゾットに任せ、プロシュートは早々にの家へと向かった。
彼女の機嫌はやはり麗しくはない。
いつもなら笑って出迎えてくれるところを、勝手に入って来いと言わんばかりにドアが開いた。
鍵がかかっていないだけマシと言うものか。
の機嫌は悪いというよりは、彼女は怒っていたし、何より傷ついていた。
目の前で彼は美女にキスをしたということは基より、彼がが見ているのを知っていた上でその行為を行ったことに傷ついていた。
仕事の為に仕方なく、とは説明したものの、それはどんな仕事なんだと言い返されてさすがのプロシュートも頭を抱える。
彼の仕事は公衆の面前でキスをしなければならないものだとはは思っていない。
だって彼を許したい。
彼に笑顔で接したいと思うのだが、口を開けば文句が出そうで、かと言って閉じれば涙の方が出てきそうな雰囲気になっている。
面倒くせぇな。
プロシュートは実力行使に出ることにした。
の体を引き寄せ、唇を奪う。
日中あの女にしたのとは違う、甘く優しいものを。
一度唇を離し、を見る。
彼女が放心したような表情をしたのを見て、再度キスをする。
ゆっくりとじっくりと。
舌を滑り込ませ咥内を犯す。
また唇を離し、今度は彼女の首筋にキスを落とす。
そのまま少しずつ下へとプロシュートは下がっていく。
いつもならそのまま先へと進むのだが、今日は違った。
「ダメっ」
「ダメってお前な」
口を塞ごうと再度キスをしようとした時、彼女はプロシュートの唇に手をあててこう言った。
「キスは一日に三度まで」
「まだ二回しかしてねぇだろ」
「朝したじゃない」
そうだったかと思い出す。
「じゃあキスなしでこのまま続けるんだな。
 それでもいいが」
「それもダメ」
「おい」
「おあずけ」
彼女はまだ怒っていた。
泣き出す様子はなくなったが、逆に怒りを露にしている。
最初の段階でキスしない、と言われなかっただけ良かったのかどうか。
プロシュートはどうしたものかと考える。
前の彼であれば、こんな女は面倒くさいと逆切れして別な女のところに向かうのだったが。
今や彼の傍にいるのはこのだけなのだ。
は疑っているようだが、今はしかいない。
他の女を抱く気にはなれない。
彼は大きく息を吐いた。
「悪かった」
まさか女のことで謝ることになろうとは。
あの女にもう少し脅しをかけて無理やり奪い取れば良かったのだと後悔する。
「もうしねぇよ」
プロシュートが低い声で言った。
「他の女にはキスしねぇ。
 触れもしねぇ」
それでいいか?と聞かれては目を大きく開いた。
彼は自分だけと言ってくれているのだ。
本当かどうかはわからないが、はそう言ってくれたのが嬉しかった。
「うん」
は彼の唇にキスをした。
「三回までじゃなかったのか?」
「いいの。もう解禁」
「短いおあずけだったな」
プロシュートは口の端をあげる。
その夜、二人は数え切れないほどのキスをした。


あとがき。
キスは一日三度まで
完了:2014/8/23